入学式の朝。
「学校、どこ。」
家から学校までが果てしなく遠い。
初日なのに、もう退学したい。
これから3年間もこの道を通うなんて、ちょっと信じられない。
家から最寄り駅までは自転車で、小さな駅で電車を降りる。そこから学校までは歩いて15分。
その道のりにはコンビニひとつなくて
視界いっぱいの若葉のグリーンの中にアスファルトの一本道が続いてる。
静かすぎる風景に、これからの日々が重くのしかかってくる。
「毎日は無理、本当に無理。」
受験前はこんな気持ちになるなんて想像していなかったな。
期待と不安で胸がいっぱい…とはならなくて絶望を抱えて教室に入る。
一緒に合格した夏香とはクラスが離れてしまった。
「茉莉絵?」
小学校を卒業してから会っていなかった茉莉絵がそこにいる。小学生のころは仲良しだった。
友達ができるか心配していたけど、茉莉絵と再会してテンションが跳ね上がる。
「久しぶり。」
「うん、久しぶり。」
「仲良くしようね。」
「もちろん、よろしくね。」
茉莉絵は顔立ちがはっきりしていて、性格もまっすぐ。
裏表がないから付き合いやすくて、小学生のころはクラスの中心にいた。
名簿順で着席したわたしの場所はいちばん後ろ、ひとつ前の席には同じ苗字の果穂、
左隣の席には真面目そうな咲良。
果穂はいかにも田舎の中学生って感じで、三つ編みのおさげに白いソックス。
机にきちんとノートと筆箱を並べる姿は、どこか古風で。
少し都会から通うわたしには浮いて見える。
「入学式当日に掃除させるって、どうなの。」
果穂につぶやく。
「あなた、頭が悪そうだね。」
どストレートな言葉が返ってきたから、わたしはほうきを片手にフリーズ。
頬が熱くなる。どんな会話を続けるのが正解か分からなくて。
早生まれのわたしは15歳になったばかり。
大人の対応はまだ知らなくて、ただ曖昧に笑ってごまかしてみる。
明日からはテストがある。意外にもここは進学校で。
でも受験が終わったばかりだから、いまは勉強はしたくない。


