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「制服は規定通りに着ろよ。」

朝の電車を降りた瞬間、いつもよりざわざわした声がする。

「絶対、アレだ。」

「やられたぁ。」

小さな駅の改札口に、生徒指導の小山先生が見えた。

もうすぐ進級。

今日は保護者会があるから、校則違反のチェックに来てるんだ。

わたしはホームで慌ててリボンを探して、スカートを規定の長さに戻す。

メイクは今さらどうにもできなくて、前髪でなんとか隠してみる。

小山先生の前を通り過ぎると、みんなが小声で話しているのが聞こえる。

「見つからなくて、よかったね。」

「抜き打ちすぎるでしょ。」

この駅はうちの学校の生徒しか使わないから、こんなことがたまにある。

午前中で授業はおしまい。

担任の杉ちゃんが、教室でみんなに掃除の指示をしてる。

保護者が来るから、いつもより気合いが入ってる。

「ロッカーの上も拭けよ。」

「分かってるって。」

クラスのムードメーカーの白井くんが、だるそうに返事をしてる。

「そんな返事だと、白井の親にテストの成績が悪いってバラすぞ。」

「いいよ、うちの親は分かってるから。」

杉ちゃんと白井くんのやりとりを聞きながら、ふと

わたしのことは親にどう言うんだろうって気になった。

「杉ちゃん、わたしのことは親になんて言うの?」

「そりゃ、もっと勉強がんばれって言うよ。」

「ほんとに?」

「言われたくなきゃ、クラスで5位以内に入れよ。」

――待って。

わたし、果穂に「あなた、頭が悪そうだね。」って言われて悔しくて

毎回テスト勉強を頑張ってるよ

クラス順位は5位以内、ちゃんとキープしてるのに。

「杉ちゃん、もしかして、わたしの成績知らない?」

「知らん。」

杉ちゃんのこういうとこ、なんか好き。

生徒にあまり関心がなくて、ドライなんだよね。

「わたし、いつもクラスで5位には入ってるんだけどな。」

「お前が?あとで確認するからな。」

その疑ってる顔、やめてよ。

家に帰って、杉ちゃんが母親に渡した成績表を見てみたら、クラス順位は2位だった。

「先生が大学どうするの?っておっしゃてたけど。」

「ん、まだ決めてない。」

「受験はするの?」

「分かんないよ。」

思っていたよりも娘の成績が良かったからなのか、

夕飯はわたしの好きなチキンステーキ。

この味付けは我が家の自慢。大好きで、どれだけでも食べれる。

母親には「高校生の食欲はすごいね。」って驚かれる。

夜、部屋でメイク動画を流しながら、部活がない日は副部長と話すきっかけがなくて寂しいなって思う。

――何か話したいな。でも、用事もないし。

動画をスクロールして、トーク画面を開いて、また動画を見て。

どれだけの時間がたったんだろ。

―指定校推薦って難しいですか?

送ったあとで、唐突すぎたなって不安になる。

すぐにフォローするように

―あ、親が保護者会で大学のこと聞かれて。

って送る。

これなら、変に思われないよね、って自分に言い聞かせる。

―どこか行きたい大学、決まったの?

―西海大学とか。

本当にそこに行きたいわけじゃないけど、なんとなく答えてしまう。

―西海大学って、この地方の私立では難関だよ。

うん、分かってる。でも、他に知ってる大学もない。

―西海大学の指定校推薦だったら、相当な努力が必要だよ。

現実に引き戻される。

―そうですよね、いろいろな大学を調べてみます。

メッセージができて嬉しいのに、とんでもないこと言ってると思われたかもって恥ずかしくて

複雑な気持ちが込み上げてくる。

ありがとうございます、って書いてある可愛いスタンプを送った。

ついこの前までは部長のことも意識してたはずなのに、最近は副部長のことばかり考えてる。

きっとまだ恋とは言えない。

でもこの気持ちが大きくなっていくのは、ちょっとだけ怖い。

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